ビジュアルスノウとは、視界に砂嵐や過度の飛蚊症、物体の残像が見えたり、原因不明の耳鳴りやうつ症状が表れたりする病気を指します。ビジュアルスノウ症候群(視界砂嵐症候群、雪視症、小雪症候群、Visual Snow)と呼ばれることもあります。
東京オリンピックで大活躍をした水谷選手が、卓球の引退を決意するキッカケとなったほど生活に支障をきたす病気です。
現役引退の意向を表明しているが、その引き金となった目の不調について「ビジュアルスノウ(視界砂嵐症候群)」だと明かし、「私生活でも厳しいところも出てきた。これからストレスを感じながら卓球を続けていくのは難しい」と改めて語った。
引用元:水谷隼 目の不調は視界砂嵐症候群「私生活でも厳しい」引退の引き金に(デイリースポーツ) – Yahoo!ニュース
当障害は、冒頭で紹介した5つの症状だけではありません。驚くべきことに、その症状数は総計で24種類にも渡ります。そして、大半の症状は24時間365日やむことがない永続的な症状です。
下記をご覧ください。これは、ビジュアルスノウにおける視覚症状の一部(残像、飛蚊症、砂嵐、羞明)を一つの画像に組み込んだものです。(モナシュ大学作成)
複数の症状が同時発生する……それが患者にとっての日常なのです。
当記事では当障害の各症状や原因、治療法、改善法、診断基準などについて論文や研究機関の資料をもとにまとめあげました。人それぞれ知りたい情報が異なるかと思いますので、目次欄からご自身の知りたい情報へアクセスなさってください。
ビジュアルスノウの症状
ビジュアルスノウの症状は、視覚的症状と非視覚的症状があります。ほとんどの患者は1つの症状だけでなく複数の症状を併発しています。
当障害には先天性のものと後天性のものがありますが、症状は同じです。
それでは、ビジュアルスノウの視覚症状(見え方)と非視覚症状(感じ方)を見ていきましょう。
ビジュアルスノウの見え方(視覚症状)
ビジュアルスノウ(砂嵐):雨や雪、砂あらしのような無数の点が視界中に飛び交う
ビジュアルスノウの数ある症状のなかでももっとも特徴的な症状が「ビジュアルスノウ(Visual Snow/Visual Static)」です。この症状は、視界中に無数の粒子がちらつきます。粒子の色は個人差があり、白色単色だけの方もいれば、赤や緑の混色の方もいます。
The study was approved by the KCL Research Ethics Panel. Of patients (n=514) replying, 280 were male, with a mean cohort age of 29±10 years. They presented with black and white (n=287), coloured (n=222), flashing (n=227) and transparent (n=272) static
本研究は、KCL研究倫理委員会の承認を得た。回答のあった患者(n=514)のうち、280人が男性で、平均年齢は29±10歳であった。白黒(n=287)、色付き(n=222)、点滅(n=227)、透明(n=272)の砂嵐を呈した。
引用元:PO069 Clinical characterisation of visual snow | Journal of Neurology
症状がアナログテレビの砂嵐や粉雪に似ていることから、ビジュアルスノウ(視覚的な雪)や雪視症、視界砂嵐症候群といったさまざまな呼称が誕生しました。
症状の度合いは個人差が激しく、粒子のサイズが大きく量が多いほど、その症状は過酷となります。この症状の特徴的な点は、視界に移る光量によって、症状が大幅に変動する点です。明るいところでは症状が大幅にやわらぎ、暗いところでは大幅に悪化します。
例えばこの記事を書いている私の場合は、明るいところでは1枚目画像、暗いところでは2枚目画像の見え方となります。
先ほど説明したとおり症状の個人差が激しいため、私よりも過酷な症状を持っている方の場合は、下記のような光景となります。
上記は静止画ですが、実際は粒子が四方八方に動き回ります。現物の見え方を模倣した「ビジュアルスノウ」のリリーフ動画は下記です。
なお、「ビジュアルスノウ」の意味は広義と狭義がありますので、文脈に応じて判断しましょう。
狭義:ビジュアルスノウの症状の一つ、砂嵐
広義:ビジュアルスノウ、視界砂嵐症候群、雪視症など当障害の総称
反復視(過度の残像・トレイリング)
反復視(Palinopsia)は、過度の残像やトレイリングの総称です。
実は残像現象自体は、健常者でも条件によっては、認知できない・気にならない程度に症状を経験します。しかしビジュアルスノウ患者の残像は、健康な人とはまったく度合いが異なります。長時間視界に残り、日常生活に支障をきたしてしまうのです。
それでは、この過度の残像・トレインリングについて見ていきましょう。
光を見た後、しばらく残像が残るのはなぜ?|瞳のギモン|アキュビュー® 【公式】
※立命館大学・総合心理学部/文学部人文学科心理学専攻教授・北岡明佳先生監修
過度の残像:ある物体から目をそらした後もその残像が見える
過度の残像(Excessive After-images)は、物体を見た後に数秒間、その物体の残像が残る症状です。例えばスマートフォンに視線を合わせたあとに、視線を天井にそらしたとしましょう。この際に、自分が見つめている先(天井)にスマートフォンの視覚像が映し出されます。
次に天井から視線をそらし、青空を見たとしましょう。すると今度は青空に天井の残像が映し出されます。一度視線を合わせたすべての物体には、残像が伴うのです。このため1日に視線を動かす回数分(数百~数千回)だけこの症状を経験することとなります。
過度の残像については静止画で説明することが難しいため、下記動画の1分05秒~1分06秒をご覧ください。(動画再生後すぐに上記時間で再生が始まるように設定済みです)
この症状も、日常生活のさまざまな要素の影響を受けて症状の度合いが異なります。詳細な性質については下記記事をご覧ください。
トレイリング:ある物体から目をそらした後も、その物体が動いて見える
トレイリング(Trailing)は、動く物体から視線をそらした後もその物体の動きが見える症状です。この症状のイメージ画像は次のとおりです。
出典:Symptoms | The Visual Snow Foundation
お分かりいただけるでしょうか。手の後ろに薄っすらと見える手の残像がトレイリングです。私が普段見ている視界のイメージ動画も作成しましたので、下記もご覧ください。
比較をするとわかりやすいかと思いますので、健康な人verも作成しました。
過度の内視現象
内視現象(Excessive Entoptic Phenomena)とは、下記5つの症状の総称です。
- 光視症
- 眼内閃光
- 飛蚊症
- ブルーフィールド内視現象
- 閉眼幻視
内視現象においても残像と同じく、正常な眼機能・脳機能を持った人でも同様の経験をします。当障害の場合は、「過度の内視現象」であり、また健康な人よりも症状を発症する確率が高いのが特徴です。
なお私は複数の眼科にてビジュアルスノウの諸症状を伝え、目の状態を検査してもらいましたが、網膜剥離や緑内障などの異常は一切見つかりませんでした。Twitterでも同様の声が散見されるため、同じ症状ではありますが、ビジュアルスノウと網膜剥離や普通の飛蚊症などでは、おそらく症状が表れる仕組みが違うのだと考えられます(論文が発表されましたら、ご紹介します)。
眼科に行きビジュアルスノウの症状を伝え眼底検査をしました。
眼底検査では異常なし
一時的なものだろうとの事
飛蚊症にも間違われました
1ヶ月後に再検査に行きます#ビジュアルスノウ— ミモザ (@szRJhFf0qbtkPhj) May 26, 2021
ビジュアルスノウも眼球使用困難症?
脳MRI異常なし眼科検査異常なし視力検査でも見えている
でも実際は明るくても眩しくても余計なものが沢山見えて見えにくいし目を開けているだけで眩しいし頭痛するしめまいするし耳鳴りもする
めまいと全身痛や倦怠感にはてんかんの薬が効いているみたいだけどね— moruco (@kaeru0_0) March 6, 2021
光視症:視界にパッ・キラっと光るものが突然現れ、消える
光視症(こうししょう、Spontaneous Photopsia)とは、視界のなかに閃光や光の塊が突発的に現れ、消える症状のことです。光視症は網膜剥離の前兆であることがあります。ただしビジュアルスノウにおける光視症は、それとは別物(網膜剥離とは無関係)の固有の症状です。
網膜剥離は、前兆として飛蚊症(虫の様なものが飛んで見える)や光視症(光が当たってないのに当たった様に感じる)を生じることがあります。
眼科 | 独立行政法人国立病院機構 嬉野医療センター
下記は飛蚊症のイメージ画像も含まれていますが、画像左下のキラキラと光っている箇所が光視症です。
出典:Symptoms | The Visual Snow Foundation
眼科医が眼球のイラストを用いて光視症の解説をしている動画を見つけました。ご興味がおありかたのは合わせてご覧ください。
飛蚊症:糸くず・虫のようなものが視界にウジャウジャ見える
飛蚊症(ひぶんしょう、Floaters )とは、物体を見ている際に視界中に黒い虫のようなものが動き回って見える症状のことです。この黒い虫もどきの形状や大きさはさまざまであり、視線を動かした際に、この黒い虫のようなものも同様に動く特徴があります。
出典:Symptoms | The Visual Snow Foundation
一般的には飛蚊症は、硝子体の濁りや硝子体の出血によるものであると考えられていますがが、多数のビジュアルスノウ患者は眼科で検査をしても異常がなかったと報告しています。
目の中の濁りが眼底に写って見えています。目の中の濁りとは硝子体の濁りや硝子体の出血です。
ろうさいニュース | 新潟労災病院
私は期間をあけて複数の眼科で3度受診しましたが、他の方と同様に「まったく異常なし。むしろ非常に健康な状態」との診断を受けました。また『Eye floaters – Symptoms and causes | Mayo Clinic』を始めとした海外の複数の医療サイトを確認しましたが、原因・関連病気にビジュアルスノウの記述はありません。
現状はビジュアルスノウ由来の飛蚊症は病気や障害と診断されないどころか、認知もされていない様子です。
ただし、ビジュアルスノウを発病された方でこの症状が出た方は、一度は眼科で診察してもらうことが無難です。網膜剥離(もうまくはくり)など別の病気の可能性もあります。
青森労災病院 木村 百子眼科部長のお話によると、飛蚊症と関連のある病気は次のとおりです。
- 硝子体剥離(しょうしたいはくり)
- 網膜裂孔・網膜剥離(もうまくれっこう・もうまくはくり)
- 硝子体出血
- 炎症
参考:うみねこ通信 平成16年8月 | 青森労災病院
重度の飛蚊症はビジュアルスノウの普遍的な症状ですが、こういった病気の可能性もありますので、一度は眼科で診察してもらうとよいでしょう。
テレビ番組にてイラストを用いて一般的な飛蚊症の解説をしている動画を見つけました。メカニズムや飛蚊症由来の病気にご興味がある方はご覧ください。
ブルーフィールド内視現象:青空や窓を見つめるとキラキラうごめくものが見える
ブルーフィールド内視現象(シェーラー現象、Blue-field Entoptic Phenomenon)とは、青空などを見ている際に小さな点が無数にちらついて見える症状のことです。序盤で紹介した『ビジュアルスノウ(砂嵐)』と似ている部分もありますが、見え方がまったく異なり、症状としてもまったくの別物です。
出典:Symptoms | The Visual Snow Foundation
ビジュアルスノウ患者の当症状の原因は不明ですが、一般的な当症状の場合は白血球が原因であると考えられています。健康な人でも観測される症状ではありますが、ビジュアルスノウの場合は通常よりも症状が激しいのが特徴です。
実はこの虫の正体は【 白血球 】であり、白血球が血管を通るときに光をさえぎって見える影のため、血管に沿って白血球が動いた軌跡が見えるという訳です。ですので、目を動かさなくても四方八方に、虫が這いずるように見えるのがブルーフィールド内視現象の特徴であり、実は健康な人でも普通に見える症状です。
【飛蚊症】と【ブルーフィールド内視現象】の違い | うえだ眼科クリニック ブログ
ブルーフィールド内視現象については、海外医療サイトで検索したところビジュアルスノウとの関連性が記載されてありました。
Scheerer’s phenomenon can be distinguished from visual snow, as well. This is because it appears only when looking into bright light, whereas visual snow is constantly present in all light conditions including the dark – and is a sign that there may be something wrong neurologically.
シェーラー現象はビジュアルスノウと区別できるものです。当症状は明るい光を見たときにのみ現れるのに対し、ビジュアルスノウは暗闇を含むすべての光の状態で常に存在するためです。ビジュアルスノウの場合は、神経学的に何か問題がある可能性があることを示しています。
引用元:The Blue Field Entoptic Phenomena Seevividly
閉眼幻視:眼を閉じた後も砂嵐のようなものが見える
閉眼幻視とは、目を閉じた際に色付きの(通常は紫またはオレンジ色)の渦巻きや雲、波が見える症状のことです。この症状により、海外の患者や医者からは「ビジュアルスノウ患者は、いついかなるときも症状から逃れられない」と表現されます。
出典:Symptoms | The Visual Snow Foundation
海外最大規模の医師監修医学サイト『https://www.healthline.com/』によると、閉眼幻視は「生理現象」「低ナトリウム血症」「シャルルボネ症候群」により引き起こされることがあるとのことです。
しかし、ビジュアルスノウを発症後に同症状を体験する患者が多くいらっしゃることを考えると、当障害と閉眼幻視には上述した3つの要素とはまた違った関係があると考えられます。
なお、閉眼幻視に近い症状として「眼内閃光」がありますが、これは健康な人でも目を閉じまぶたをこすったときなどに症状が表れます。
羞明(しゅうめい):光の眩しさに痛みや強い嫌悪を感じる
羞明(Photophobia)とは、健康な人が眩しさや傷みを感じないレベルの光であっても、過度の眩しさや傷みを感じる症状のことです。晴天はもちろんのこと「曇り空の日でもサングラスなしでは生活できない」と報告する患者もいます。
羞明の原因としては下記のようなものが挙げられます。このなかでもビジュアルスノウ由来の光の眩しさは脳の不調が原因だと考えられています。詳細は当記事下部の「ビジュアルスノウの原因」欄で解説しています。
脳の不調(一例) |
・深刻な脳損傷 |
・核上性麻痺(バランス、歩行、眼球運動に問題を引き起こす脳障害) |
・下垂体の腫よう |
眼の不調(一例) |
・ブドウ膜炎(目の内側の腫れ) |
・角膜炎(角膜の腫れ、目の色の部分を覆う透明な層) |
・白内障(目のレンズを覆う曇り) など |
参考:Photophobia | Light Sensitivity and Migraines |
夜盲症(やもうしょう): 暗闇でものがほとんど見えない
夜盲症(Nyctalopia)とは、暗いところでの視力が著しく衰えてしまう症状のことです。人が暗闇に置かれた際には、通常は「暗順応」と呼ばれる順応が生じ、暗闇でも徐々に視界がくっきりと見えるようになります。しかし夜盲症の場合はこれが生じず、いつまでも視界が真っ暗で物を識別するのが困難な状態となってしまいます。
上記は一般的な「夜盲症」の見解です。ビジュアルスノウ患者の場合は、「ビジュアルスノウ(砂嵐)」や「反復視」、「ハロー」「色のコントラスト感度」などにより暗闇での物体の識別が困難な状態になることを指します。
出典:Symptoms | The Visual Snow Foundation
ハロー・グレア:車のライトなどがギラついて見える
ハロー・グレア(Halos & Glare)とは、車のヘッドライトや街灯などに視線を合わせた際に光が乱反射し、光がぎらついて見えづらくなる症状のことです。一般的には白内障の手術後に発生する症状ですが、ビジュアルスノウ患者の場合は白内障の手術をしていなくとも症状が発生します。
出典:車のライトが乱反射する?多焦点眼内レンズがもたらす意外な症状 | 白内障治療専門サイト アイケアクリニック
スターバースト:光が放射状に飛散して見える
スターバースト(Starbursts)とは、暗いところで光を見た際にその光が放射状に飛散する症状のことです。
出典:Symptoms | The Visual Snow Foundation
一般的には多焦点眼内レンズやレーシックの手術、白内障などをキッカケに発生する症状ですが、ビジュアルスノウ患者の場合はこれらの手術をしていなくとも症状が発生します。
ハロー・グレア・スターバーストは、白内障の症状として知られていますが、多焦点眼内レンズでも起こる副症状
引用元:デメリット|多焦点眼内レンズを用いた白内障手術|はんがい眼科
スターバーストとは、夜間に光りが放射線状(星状)に広がってまぶしく見える現象のこと。レーシック手術における合併症のひとつ。
引用元:「スターバースト」 眼科用語集 | みなと眼科クリニック(大分県別府市)
ゴースト現象:文字などが二重に見える
ゴースト現象(Ghosting/ Ghost image )とは、物体が二重に見えてしまう症状のことです。光源の上下、周囲に物が重なって見えます。一般的には多焦点眼内レンズや乱視の影響により発症すると言われています。
ハロー・グレアのほかに、「ゴースト」という、物が二重に見える現象が起こりやすい多焦点眼内レンズもあります。—中略— ゴーストが出現しやすいことで知られているのは、レンティスMプラスというレンズです。
引用元:車のライトが乱反射する?多焦点眼内レンズがもたらす意外な症状 | 白内障治療専門サイト アイケアクリニック
”As mentioned earlier, many people who report “double vision” are more accurately experiencing blurriness or ghost images. Unlike true double vision, which is a sign of something serious, ghost images are often linked to a condition known as astigmatism.
Astigmatism is caused by uneven focus, which is a result of either a misshapen cornea or lens inside the eye. Typically, astigmatism is either corrected with glasses, contact lenses, or our LASIK procedure (if you’re a good candidate for LASIK).”
複視を報告する多くの人々は、よりぼやけたゴーストを経験しています。深刻な何かの兆候である本物の複視とは異なり、ゴーストは乱視と関係があります。
乱視は、不均一な焦点によって引き起こされます。これは、角膜の形状が正しくないか、目の中の水晶体が原因です。通常、乱視は眼鏡、コンタクトレンズ、またはレーシック手術(レーシックの良い候補者の場合)のいずれかで矯正されます。
引用元:Double Vision, Floaters, and Other Common Eye Phenomena | WOOLFSON EYE INSTITUTE
これも過度の残像やトレイリングと同様に、周囲との色のコントラストが強ければ強いほど症状は顕著になります。したがってまったく同じ症状の人でも、読む媒体のフォントや文字の太さなどが変わることにより、症状が大幅に変化します。
- 白い背景にグレー色の文字:色のコントラストが弱いため症状が弱まる
- 黒い背景に白色の太文字:色のコントラストが強いため症状が強まる
下記はシュミレーションサイトの度合いを調整したものです。厳密には0から100の100段階ですが、数値を10程度ずつ上げてレベル1から3に分けてみました。
複視: 文字などが二重に見える
複視(Double Vision)もゴースト現象同様にモノが二重に見える症状です。片目だけに症状が表れる単眼複視と両目に症状が表れる両眼複視があります。
ゴースト現象と複視は区別されることもあれば、同一視されることもあります。
軽度の複視(ゴーストと呼ばれることもあります)がみられる
引用元:白内障 | 20. 眼の病気 – MSDマニュアル家庭版
アメリカ各州で展開する眼科「WOOLFSON EYE INSTITUTE」のWebページ「DOUBLE VISION, FLOATERS, AND OTHER COMMON EYE PHENOMENA
」では、複視とゴーストを明確に分けて解説しています。
日本の検索エンジンでの結果を見ると、そもそもゴースト現象という単語はあまりヒットしません。一方で、複視についての解説ページは多数ヒットします。
後ほどご紹介するVSI公表の診断基準では、複視(Double Vision)の記載だけがしてありますが、英国公認慈善団体『Visual Snow Foundation』ではゴースト現象(Ghosting)だけが取り扱われています。
統一されていない様子ですので、ひとまず「ゴースト現象≒複視」と曖昧な認識を持っておくことが無難でしょう。
周辺視野のちらつき:視界の端がぐにゃぐにゃして見える
周辺視野のちらつきが起こることもあります。この際のちらつきは、夏場のコンクリートで見られる「逃げ水現象」と似ており、視界がぐにゃぐにゃとします。
なお周辺視野とは視界の「中心視野」からはずれた周囲の視野のことです。
引用元:SIGHCI175で「周辺視野における妨害刺激の減衰が集中度に及ぼす影響」というタイトルで発表してきました(髙橋拓) | 中村聡史研究室
色のコントラスト感度の低下:色を区別する能力が落ちた
色のコントラスト感度の低下とは、文字通り物体の色のコントラストを感知する能力が低下した状態のことです。この能力が低下すると、物体が持つ色を見分ける能力が落ち、多色の物体が単色に見えたり、暗闇のなかでライトが過剰に眩しく見えたりします。
引用元:色のコントラスト感度|福岡市の眼科|白内障・網膜硝子体手術・緑内障手術|望月眼科
2021年6月21日にYahoo!ニュースに掲載されたビジュアルスノウについての記事によると、日本研究チームで独自研究を行った結果、白と黒の縞模様を判別するコントラスト感度が両眼で低下していることが判明したとのことです。(おそらくこちらの研究資料 ※サイト上では閲覧不可)
私も参加している東京医科歯科大学の神経眼科研究グループと東京都健康長寿医療センターPET研究室は、ビジュアルスノウ患者の脳糖代謝変化を調査しました。この結果、患者は、白と黒の縞模様を判別するコントラスト感度が両眼で低下していました。
引用元:視界の中に砂嵐のようなちらつきがあって集中できない…(日刊ゲンダイDIGITAL) | Yahoo!ニュース
パターングレア:縞模様などのものをみると、グニャグニャして見える
パターングレア(Pattern Glare)とは、色のコントラストが高いものを見た際に、その物体がグラグラと揺れて見える症状のことです。とくに幾何学的な模様や網模様の対象を見た際に生じやすい症状です。場合によっては傷みを引き起こすこともあります。
出典:Symptoms | The Visual Snow Foundation
ビジュアルスノウとは関係のない分野(後天性脳損傷:ABI)でもパターングレアや羞明は確認されています。この場合は遺伝もしくは神経学的疾患との関連性があるとされています。
POST-CONCUSSION / ACQUIRED BRAIN INJURY (ABI)
Pattern glare (sensitivity to patterns) and photophobia (light sensitivity) have known association with a range of conditions both genetic or acquired. Many of these are neurological conditions such as migraines, epilepsy, autism, dyslexia, multiple sclerosis, stroke and visual stress.
ポストコンカッション/後天性脳損傷(ABI)について
パターングレア(模様に対する感度)や羞明(光に対する感度)は、遺伝的または後天的なさまざまな疾患との関連が知られています。その多くは、片頭痛、てんかん、自閉症、失読症、多発性硬化症、脳卒中、視覚ストレスなどの神経系疾患です。
引用元:Related conditions opticalm
補足(閃輝暗点について)
患者さんの中には「閃輝暗点(せんきあんてん)」と呼ばれる、視界にギザギザしたものが見えた後に片頭痛が生じる症状を併発される方もいます。
ですので、「あれ?自分の閃輝暗点はビジュアルスノウの症状ではないの?」と感じられたかも知れませんが、現段階では閃輝暗点はビジュアルスノウの症状には含まれていません。(後述する診断基準を参考)
ビジュアルスノウの感じ方(非視覚症状)
ここまではビジュアルスノウの視覚的症状について解説してきました。この障害では非視覚的症状と呼ばれる、視覚以外の症状も併発しますので、ここからはこれらについてご紹介します。
耳鳴り:キーン・ジーンといった不規則な音が鳴り響く
耳鳴り(Tinnitus)とは、耳のなかで「ジー」「キーン」「ザー」「ヒュー」「シュー」といった雑音が鳴り響く症状のことです。これらの音は不規則であり、一定秒数ごとに聞こえる雑音が変わります。
個人差が大きな症状ですが、私の場合はセミの「ミーン」という鳴き声に非常に近く、「今年はセミの鳴き声がいつもよりうるさいな……」と思っていたところ、秋に入り耳鳴りを発症していたことに気付いたほどです。
2014年にChristoph J. Schankinらによって行われた研究『‘Visual snow’ – a disorder distinct from persistent migraine aura』では、ビジュアルスノウ患者の62%が耳鳴りを併発していることが判明しました。一般人の場合は、全体人口の7.9%の人が発症する症状のため、当障害と密接に関連があることが伺えます。
聴覚過敏:音に非常に敏感であり、騒音に多大なストレスを感じる
聴覚過敏(Hyperacusis)とは、名前のとおり音に対して過敏になる症状のことです。通常の人が不快に感じない周波数や音量でも不快感や傷みを伴います。車の騒音など正常な人ではあまり気にしない程度のものでも苦痛に感じるため、日常生活が困難になってしまうケースも。
聴覚過敏はビジュアルスノウ以外の病気でも発症しますが、一部の病気由来のものでは治療により治るケースもあります。ただ当障害の場合は、下記の「難治例」や「原因を確定できないもの」に該当します。
聴覚過敏は,聴覚異常感の中でも耳鳴に次ぐ頻度で訴えられる.原因疾患を治療できれば改善するが,難治例や原因を確定できないものがあり,日常臨床ではその取り扱いにしばしば苦慮する.
聴覚過敏の診断と治療 福岡大学病院耳鼻咽喉科
離人症(離人感・現実感消失症):身体や精神が自分から切り離されたように感じる
離人症(depersonalisation-derealization disorder、depersonalisation)には、下記の2種類あります。
離人感(depersonalisation):自身の生活を外部から眺める感覚
現実感消失(derealization):自分の周囲から遊離(ゆうり)している感覚
これらの症状は、周期的に発症することもあれば持続的に発症する場合もあるなど、不規則な性質を持っています。一般的には小児期の虐待や日常生活における過度のストレスが引き金になり発症すると言われています。
ビジュアルスノウと同様に離人症もメカニズムが長年不明でしたが、最近の研究では脳検査により脳の活動が通常の人と異なることが判明しています。
発表のポイント
・外界が色褪せて見える知覚変容を生じる脳のしくみを発見
・ドーパミン受容体密度が高い人ほど、色褪せて見えると錯覚している時、前頭葉と頭頂葉の神経活動が高くなる
・知覚変容を伴う離人感・現実感消失症1)を生じる脳のしくみの理解と、それに基づく新たな診断や治療につながることが期待される引用元:世界が色褪せて見えるのは脳のせい―離人感・現実感消失症の病態解明への第一歩― | 国立研究開発法人日本医療研究開発機構
ブレインフォグ:頭がボーっとしたりモヤモヤしたりして何も集中できない
ブレインフォグ(Brain fog)とは、頭に霧やモヤがかかったような感覚が襲い、記憶力や集中力、思考力の低下を引き起こす症状のことです。この症状に襲われている際には極度に頭がボーっとするのが特徴です。
ビジュアルスノウとは別の研究、新型コロナの研究においては免疫の異常との関連がある可能性が浮上しています。
最近の研究から、こうした症状には免疫の異常が関わっている可能性が出てきた。
引用元:コロナ後遺症「ブレインフォグ」 免疫異常が関与か 日本経済新聞
精神的症状:原因不明の精神的苦痛が生じる
ビジュアルスノウ患者の多くは、不安障害(不安神経症・強迫性障害)やうつ病などの精神疾患と診断されています。
めまいと吐き気:めまいや吐き気がする
「回転性めまい」や「非回転性めまい」、吐き気に襲われることもあります。回転性めまいでは、自分自身がグルグル回っているように感じ、非回転性めまいではフラフラ感やグラグラ感に襲われます。
振戦(ふるえ):理由もなく体が突然ふるえだす
振戦(Tremor)とは、手や頭、声帯、体幹、脚など体の一部で生じる、リズミカルなふるえのことです。この振戦は、自分の意思では抑えられず、体が勝手に動いてしまいます。健康な人でも「生理的振戦」により体がふるえることは少なからずあります。例えば腕を前に伸ばす際には、わずかにふるえてしまうものです。
しかし振戦のなかでも下記表のようなものは障害としての症状です。
引用元:いまさら聞けない「あの用語」 – 振戦 | キャリタス看護
32人のビジュアルスノウ患者を対象に行われた研究「Visual snow: A thalamocortical dysrhythmia of the visual pathway? 」では、被験者のうち22%が病気的な振戦を発症していることが報告されました。(論文中では「Tremor」としか記載されていないため、4種類あるTremorのうちどの種類のものなのかは不明です。)
あなたも当てはまるかも?ビジュアルスノウの診断基準
アメリカやイギリス、オーストラリアの大学教授が研究チームを組んでビジュアルスノウの研究をしており、そのチームの名前を『Visual Snow Initiative(VSI)』と呼びます。VSIでは、当障害の診断基準が公開されていますので、そちらを翻訳したものをご紹介します。
ビジュアルスノウは何科を受診すればよいのか?
下記記事では、ビジュアルスノウを診断してもらえる・取り合ってもらえる見込みのある病院について解説しています。
ビジュアルスノウと失明
ビジュアルスノウ(視界砂嵐症候群)と失明の関係性について、下記の方々の意見をとりまとめました。
- 日本でビジュアルスノウの診察を行ってきた医師
- 海外研究者
ビジュアルスノウの原因
ビジュアルスノウの根本的な原因はいまだ明らかになっていませんが、候補として挙がっているものいくつかがあります。下記記事では、それらについてご紹介しています。
ビジュアルスノウの体験談—謎多き発症特性
ビジュアルスノウを発症した私の経験を兼ねて、当障害の発症の特徴を考察しました。
ビジュアルスノウの正式な呼称は?
「ビジュアルスノーなどと聞くこともあるけれど、正式な呼称は?」と気になる方がいらっしゃるかと思われますので、下記記事にて文献や診断書をもとに正式な呼称について解説しました。
ビジュアルスノウの患者数はどの位いるのか?
ビジュアルスノウ(視界砂嵐症候群、雪視症、小雪症候群)を専門的に取り上げている海外サイト「Eye on Vision」が公表したデータや、海外のビジュアルスノウ患者(自己申告)が集まる、あるVSSコミュニティの情報を参考に、およその患者数をご紹介します。
ビジュアルスノウの治療法はあるのか?
2020年度以前はビジュアルスノウの治療が成功したとの報告はありませんでした。
治療は5人の患者に適用されましたが、すべて効果がないことが判明しました。
Medical treatment was applied to five patients which all turned out to be ineffective.
引用元:Neuro-ophthalmologic Findings in Visual Snow Syndrome | National Library of Medicine (神経眼科学)
Many drugs have been investigated as treatments but none with useful levels of success.
多くの薬が治療法として研究されてきましたが、有用なレベルの成功を収めたものはありません。
Visual snow | Innovative Eye Care (薬物療法)
しかし2021年度現在ではアメリカの2人の医師が神経検眼リハビリテーションを用いた治療法を発見し、20週間のエクササイズを通して多くの患者の症状を改善・緩和させられたとの報告が入っています。
ただし楽観視できる状況ではありません。現状を整理すると、海外で治療法は発見されましたが、治験段階であり、海外・日本の医学界での認知度がまだまだ非常に低い状況です。また今後の発展のための研究資金も足りていません。
これにより日本での治療法普及の見通しがまったく立っていない状況です。それが引き金となり、2021年7月10日にある患者(SR)が精神的苦痛により飛び降り自殺配信をTwitterライブにて決行しました。
SRさんはビジュアルスノウという病気でした。
高円寺にいると言っていて、実際18時頃にこのようにツイートされているので本当に飛び降り自殺したと思います。止められませんでした。
ビジュアルスノウは認知度はとても低いですが恐ろしい病気です。
日本でも研究が進んでほしいです。 https://t.co/4am3TMlUhI pic.twitter.com/SFLXVGJReU— ふふふふふ (@73U9qoCslV6koYk) July 10, 2021
このため、一刻も早い治療法の普及が必要です。それにあたり、研究資金や医師・一般人の認知拡大が重要となっています。
ビジュアルスノウの研究報告が整然としていない理由
ビジュアルスノウ研究報告の順序がバラバラになってしまうことがありますので、そのことについてお知らせです。
ビジュアルスノウの改善・緩和方法
海外論文を参考にビジュアルスノウの改善・緩和方法をご紹介します。
ビジュアルスノウ研究における課題
ビジュアルスノウ研究における課題は、認知拡大です。患者・医師・研究者において認知度が低く、研究の規模が小さいのが現状となっています。
認知度を高めることにより、研究に使える機材を増やせたり、携わる研究者・医師の母数を増やせます。これにより日本での治療法浸透を加速させられます。
認知拡大の詳細については下記をご覧ください。
ビジュアルスノウの論文まとめ
これまで報告されているビジュアルスノウについてのレポートの要点をまとめました。
ビジュアルスノウは医学的にどういった立ち位置なのか
ビジュアルスノウは希少疾患・難病・障害のどれに該当するのか国からサポートは受けられるのか?について下記の記事でまとめています。
私は物心ついた時に「雨が降ってる、テレビの砂嵐薄くしたのがかかってる」と思ってました。眼科医にも言ってみましたが何もコメント貰えなかったので視力悪い人みんなこんな感じなのかなーと今に至ります…
ふと思い立って視界、雨、ザリザリとかキーワード入れたらこのビジュアルスノウが出てきて知りました。
自分の視界は比較出来ないので普通の見え方と比べてあげることとか、見え方の表現はいろいろ引っかかるようにした方が認知度上がるのかなーと思います。
なので、雨が降ってる、砂嵐、ざらざら、ザリザリとか白い紙が少し眩しく感じる…とかキーワードにあげますね
本人が見え方が違うことを気づかせてあげなきゃいけないのがこの症状の難しいところですね
私はビジュアルスノウを発症した時期をちゃんと思い出せません。中学生の頃には出ていたので、おそらく病気とは7年くらいの付き合いになります。
ある日ふと目の前のざらざらが気になり始めて集中できなくなることが増えましたが、最初のうちはまだその程度でした。
高校3年に入り偏頭痛が増えてきて、ビジュアルスノウやそれに伴った羞明、離人感、夜盲症、他にも鬱みたいな精神的な問題も酷くなって来ました。
高校4年目、卒業論文を書き終わった冬頃には本格的に鬱になり、いつでも付きまとう色のベール、ビジュアルスノウに絶望感すら覚えました。寝ようと目を瞑っても、空を見ても、壁を見てもどこでも着いて来て、余裕が無い時は本当に疲れる病気です。
いち早く治療法が見つかることを切に願っています。
私は小学生の低学年頃から視界に砂嵐が常にあります。(現在32歳です)ビジュアルスノウって気付いたきっかけは仰天ニュースです。
私の現在の症状は、砂嵐、内視現象(空、アスファルト、白い壁などをみると光の粒がたくさん動いてみえますw)、ハログレア現象(特に車のライトが広がってみえてとても眩しいです)、細かいギンガムチェック柄などをみるとグニャグニャしてみえるので気持ち悪くなるなどの症状があります。
症状は日に日に確実に悪化していってます。それでも眼底検査はいつも異常なしで網膜も綺麗ですよってどの眼科に行っても言われています。早く治療法が見つかることを願っています。
りおさんコメントありがとうございます!
私も同じような病態ですので、お気持ち非常にわかります。早く治療法が確立・普及するといいですね。