ビジュアルスノウ症候群(視界砂嵐症候群、雪視症、小雪症候群、以下ビジュアルスノウ)が悪化するかどうかについては、論文・研究者・患者の間で意見が分かれています。
その詳細についてこれからご紹介しますので、下記のような方はぜひ最後までご覧ください。
モナシュ大学教授の見解:ビジュアルスノウは悪化しない
モナシュ大学(オーストラリアの大学)の眼球神経(眼球運動)研究室長および教授であるDr.Owen Whiteは、ビジュアルスノウの悪化の有無について下記の動画で次のように述べました。
- 個人的にはビジュアルスノウは悪化しないものだと思っている
- 症状が進行しているのではなく、日ごとに脳の調子にムラがあるだけである
- 別の病気を患っており、それが悪化を引き起こしている可能性がある
大多数の患者にとってビジュアルスノウ症候群(VSS)が進行性の疾患であるとは思っていません。
私は、VSSはその日の脳の機能に応じて変化する症状だと思います。
脳は非常にノイズの多い電気的環境であり、ずさんな作業の原則に基づいて機能していることを覚えておくことが重要だと思います。
ですから、脳の機能に依存する症状は変動することが予想されます。その意味で、変動するということは、必ずしも進行しているということではないと思います。
進行性であるかどうかは不明ですが、別の進行性の病気を患っている患者さんに当障害と同様の症候群が発生したという報告があります。
私の考えでは、VSSはどの疾患群にも属さず、それ自体は進行性ではありません。しかし当障害のような症状は、他の病気を持つ一部の患者に生じる可能性があるでしょう。
いち患者の見解(体験談):悪化するが、すべての症状が悪化するわけではない
教授の意見によると、悪化しないとのことです。しかし私の場合、発症をしてから2年間、明らかに悪化をし続けています。気のせいと言えるレベルではありません。ただしすべての症状が進行しているわけではなく、悪化しているものと停滞しているものがあります。
悪化しているもの |
・反復視:過度の残像 発症した当初は夜中の街灯を見つめ、視線をそらした際に、0.01秒程度ぼんやりとした光が薄っすらと見える程度でした。その後1日単位で悪化をし続け、1か月後には0.05秒程度はっきりとした光(街灯)の残像が見えるようになりました。2年たった現在では、街灯に一瞬視線を合わせただけで、3秒程度はっきりと残像が残るようになっています(2年間同じ条件で比較)。トレイリングについては割愛しますが、トレイリングも同様の勢いで進行し続けています。 |
・飛蚊症 発症をした当初は、3,4セットの卵の群が動き回る程度でした。いまは10セット程度の卵の群れが、かつてよりも長い群れを無し動き回っています。 |
・耳鳴り ビジュアルスノウを発症する前からかすかな耳鳴り(ジーン)はありました。発症後、ある時期を境に急激に悪化し、今では「キー!!キーン!!ミ~ン!!」が日常です。 |
悪化せず停滞しているもの |
・ビジュアルスノウ(砂嵐) |
・片頭痛 |
※私の場合は、閃輝暗点や離人症、ゴースト現象など上記以外の症状は発症していません。 |
患者へのアンケート結果:99人中47人が悪化を経験し、残り52人は症状に変化無し
このことから教授の見解に疑問を抱いたため、海外のビジュアルスノウの患者コミュニティ『Reddit』にて、アンケートをとってみました(2021年3月)。
その結果は下記です。
質問:あなたのビジュアルスノウの症状は、発症後、悪化していますか?
引用元:Has your VSS been worse since you got it? Reddit
症状が悪化をしていると答えた人は47人。当障害を発症後、症状の変化はないと答えた人は52人。予想通り、症状の悪化を経験した人が多いことがわかりました。
論文1:78人中46人が悪化を経験し、残り32人は症状に変化無し
2014年にアメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)に投稿された論文「’Visual snow’ – a disorder distinct from persistent migraine aura」では、78人中32人が発症後一定の症状を保っている一方で、残りの46人は悪化を経験していたとの記述があります。
a prospective semi-structured telephone interview in a further 142 patients identified 78 (41 female) with confirmed ‘visual snow’ and normal ophthalmological exams. Of these, 72 had at least three of the additional visual symptoms from step (ii). One-quarter of patients had ‘visual snow’ as long as they could remember, whereas for the others the mean age of onset was 21 ± 9 years. Thirty-two patients had constant visual symptoms, whereas the remainder experienced either progressive or stepwise worsening.
142人の患者を対象としたプロスペクティブな半構造化電話インタビューでは、「ビジュアル・スノー」が確認され、眼科検査が正常な78人(41人の女性)が特定されました。このうち72名は、ステップ(ii)で追加された視覚的症状のうち少なくとも3つを有していました。4分の1の患者は物心ついたときから「Visual Snow」があったが、その他の患者の平均発症年齢は21±9歳であった。32名の患者は視覚症状が持続していたが、残りの患者は進行性または段階的に悪化していた。
引用元:‘Visual snow’ – a disorder distinct from persistent migraine aura |Pubmed.ncbi
論文2(タイトルのみ):ビジュアルスノウは通常悪化しないもの(非進行性)である
「ビジュアルスノウ 悪化」と検索した際に、神経科学のレポートを提供するNeurodiemにて「集団研究によりビジュアルスノウは通常良性であり非進行性であることが示唆されたと研究者らは述べた。」との文言がヒットします。ただ残念ながら、こちらのサイトは神経科学を専門とした医療従事者以外の登録・閲覧ができないため、当方は確認できず肝心の詳細は不明です。
ビジュアルスノウが悪化するタイミング
ビジュアルスノウは、朝と夜に症状の変化が起こることがあります。この点について、コロラド大学神経学&眼科学教授Dr Victoria PelakがYoutubeチャンネル『Visual Snow Initiative』の動画内にて述べた意見をご紹介します。
ビジュアルスノウ症候群患者の方々から「朝と夜に症状が悪化する」という話を聞くことがあります。
いまだ明確な理由はわかっていませんが、考えられる原因が一つあります。
暗い部屋で眠りにつき、眼が閉じているとき、眼は暗順応を生じています。それが原因である特定の内視現象の強化が生じているのかもしれません。
眼が暗順応を起こした状態で、朝に眼をあけます。すると、あなたの眼が明順応をするまでの一定の時間、普段と異なった様態で内視現象を経験する可能性があります。
それらが考えられる一つの要因です。しかしいまだ明確な原因は解明されていません。
発症して2年が経つ私の経験談としては、下記のタイミングに症状の悪化を経験してきました。
- 睡眠不足のとき(睡眠時間が減れば減るほど)
- 不健康な食生活を連日続けたとき
- 長時間のスマートフォーンやパソコン利用により目が疲れたとき
- ストレス過多のとき
- 起床直後の数分間
- 入浴後
起床直後の悪化については、睡眠時間が長ければ長いほど一時的な悪化の激しさが増します。
- 熟睡>>>仮眠>>数分間目を閉じただけ
例えば夜に就寝し朝に目覚めてから数秒の視界は、強化された残像・砂嵐・入眠時心像により視界がグチャグチャになります。
今回挙げた3~5の事柄は、一過性の悪化です。しっかりと休んだり、数分から数十分が経過したりすれば、次の日には一時的に激しく悪化したものは収まります。
しかし1と2だけは、一度悪化を加速させてしまった後に、その普段よりも悪化させてしまった分が元に戻った(回復した)ことはありません。
例えば健康な生活を送った際には、1日ごとに0.1段階ずつ症状が悪化(※例え話)するとします。不健康な生活を送った場合には、たった1日で0.4段階以上症状が進行してしまいます。
規則正しく健康な生活 |
0.1(7月1日)⇒0.2(7月2日)⇒0.3(7月3日) |
不規則で不健康な生活 |
0.7(7月4日)⇒1.2(7月5日)⇒1.5(7月6日) |
再度規則正しく健康な生活 |
1.6(7月7日)⇒1.7(7月8日)⇒1.8(7月9日) |
下記は不可(進行させたものは元に戻せない) |
上表のとおり、1度悪化を加速させてしまった場合、その数値を再度0.1ずつに戻せたとしても、普段よりも悪化させてしまった分を元に戻せたことはないのです。
個人的に命取りとなる行動なので、睡眠と食生活には細心の注意を払い生活しています。
暗順応(あんじゅんのう)、明順応(めいじゅんのう)とは?
昼間と夜で、視細胞の働きが変わり、眼のモードが切り替わることを指します。
- 暗順応は30分~1時間かかる
- 明順応は40秒~1分で完了
参考:明順応と暗順応|花沢アイクリニック
内視現象とは?
眼内閃光(がんないせんこう)や飛蚊症、ブルーフィールド内視現象、閉眼幻視を「内視現象」と呼びます。
参考:Entoptic Phenomenon – an overview | ScienceDirect Topics
ビジュアルスノウが悪化する原因・理由
ビジュアルスノウが悪化する原因・理由はいまだ判明していません。またどこまで悪化をし続けるのかも同様です。
ただし私が上述した悪化するタイミング(睡眠不足や眼精疲労など)や教授のご意見、当障害の発病原因を踏まえると、ビジュアルスノウの悪化原因は脳の状態と関連していることがうかがえます。
睡眠不足は脳の活動に大ダメージを与えますし、過度の眼精疲労も眼・脳に負担をかけるものです。
恐ろしいことが脳内で引き起こされていることが、マウスを使った研究により確認された。一言でいうと、それは「脳細胞の自己破壊」だ。
慢性的な睡眠不足によって、脳は「自己破壊」する:研究結果 | WIRED
眼精疲労とは何かというと、目からくる脳と神経の疲れのことです。目は「露出した脳」と言われるくらい、脳とつながりの強い器官です。視神経から眼球までは、脳の一部と言ってもいいくらいなのです。
「3時間睡眠でも毎日元気な人」の超簡単な習慣 | 健康 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース
当障害の発症原因は、視覚機能全般を担う「視覚連合野」の異常との説もでています。これらのことからビジュアルスノウの悪化は、おそらく脳の状態と深く関連しているのでしょう。
仮説はここまでとして、海外研究チームや日本研究チームの論文で悪化の原因に関するものが発表されましたらご報告します。
ビジュアルスノウの悪化への対処方法
専門的な処置を受けず、個人が日常生活でビジュアルスノウの悪化を防ぐ方法、一時的に悪化した際の対処、気にしなくなるための工夫については下記のとおりです。
- 8時間前後の十分な量の睡眠をとる
- 良質な睡眠がとれるように、工夫をする
- 栄養バランスのよい食生活を心がける
- こまめにストレス発散をする
- 運動をする
- 電子機器のディスプレイの明るさを落とす
- 長時間スマフォやパソコンに触れない
- 眼が疲れた際には、眼を温めて血行をよくする
- 瞑想をする
ありきたりなことではありますが、これらが2年闘病生活を続けるなかで効果があったものです。より具体的な方法については、下記記事で紹介していますので、ぜひご覧ください。
まとめ
矛盾する情報が混在していますが、私を含め一定数の患者が悪化を報告していることを踏まえると、ビジュアルスノウは悪化する障害であると言えます。ただしすべての患者が症状の進行を経験するわけではないことも確かです。
このため「ビジュアルスノウ症候群(視界砂嵐症候群、雪視症、小雪症候群)の各症状は悪化する人もいれば、悪化しない人もいる」「失明に繋がった事例はいまだ報告されていない」との結論に至ります。
なお上記調査では「どの症状」が「どの程度」悪化したのかまでは言及できていませんでした。このため項目を追記し再度アンケートを実施いたします。結果がでましたらご報告します。